第5章 Loving you is Killing me.Ⅲ 前編
コーヒーが服にかかって濡れたライアンは、トレーニングウェアに着替えてから、オフィスに行くと言うので、廊下で一度別れた。
すると今度は、オフィスの入り口の前にまた、彼女がいた。
そう、千代紙さんだ…………
背の低い彼女は無言で僕を見上げてくる。
その、ジトッとした目付きに思わず
「なんですか?」
なんて声をかけてしまった。
きっとここは、無視してオフィスに入るのが正解だったのに。
すると彼女はやっぱり無言のままで、ポケットから小さく折り畳んだ千代紙を取り出すと
バシバシバシッ!!!
とNEXT能力を使って、僕の顔に貼り付けてきた!
酷い痛みではない、小さな……ほんの小さな痛み。
だけどフイを付かれたのもあって思わず声が漏れた。
「いッ……」
小さな声だった。
「何なんですか、貴女……」
メガネに張り付いた千代紙を一枚剥がして、彼女を見下ろす。
するとまだジトッとでも、真っ直ぐにこちらを見ていた目と目が合った。
「痛いのは顔?」
「え?」
「心は?」
ドキッとした。