第5章 Loving you is Killing me.Ⅲ 前編
「どうしてこんな酷いこと……」
彼女が涙目になって言ってくる。
こんな酷いこと?
僕が虎徹さんにしたことを言っているのか?
だったら言葉が少しおかしいな……
僕は何も言えずに黙ってまた、そしてもう一枚、メガネに張り付いた千代紙を剥がす。
「何それ?何の遊びしてんの?俺も混ぜてよ」
僕の顔に千代紙がたくさん張り付いているのを見たライアンが、ニヤニヤ笑いながら向こうからやってきた。
「ん?千代紙ちゃん、俺の“バニーちゃん”と遊びたかったら、ちゃあんと俺にも声をかけてね」
そう言って千代紙さんの目線に合わせて、腰を屈めながら言うライアンを見て
助かった……
思わずホッとしたんだ。
「でも今から俺達仕事なんだわ、また、今度遊ぼうね」
ライアンは僕の肩を抱くと、もう片方の手をヒラヒラと振って、そのままオフィスに入って行った。
小さな足音が遠ざかって行くのを、僕は振り返らずに聞いていた。