第1章 輪廻
男たちは腰を抜かしながらも、身体を引きずるように逃げ出した。
後ろを振り向きもせず、一目散に。
「…っ、くっ、うっ…」
あかは泣いた。
悲しみと口惜しさが、綯い交ぜになって。
迫り来る死が、怖くて。
ーあかが吊るされた、白い花を咲かす樹は。
昔から、人々に恐れられていた妖しの樹である。
一年中、花は散らず。
花から香る甘い香りは、嗅ぎ続ければやがて目眩を起こし、遂には呼吸を狭め、命を落とす。
噂では人の命を吸い糧にしているという、妖しの樹。
恐怖に駆られ、樹を切ろうとすれば。
必ず当人に厄が降りかかった。
いつしか樹は、神が宿っていると噂され。
生贄を差し出せば、苦しみから救ってくれると逸話が生まれた。
また贄は美しく、若い女子(おなご)が良いとされ。
今日(こんにち)まで数多の乙女たちが犠牲となった。