第14章 夜明けのララバイ
「uuum、最初のお便りから大分ヘビーじゃねぇか…」
うん、と唸る顔が目に浮かぶのはこの部屋にあるテーブルでテストを作っていた時に見たからだ。
「止めとけ止めとけ。恋しちゃなんねぇって分かってんなら敢えて火の中に飛び込むこたねェ」
ぷ、と自嘲気味に笑うのは私。愛した彼がこの恋を止めるんだから、笑わずにいられない。
「ただ全て捨てても良いって位惚れちまったなら構わず進めよ。振り向いてくれるかとか考えちゃなんねぇ」
いつもなら、冗談めかして喋るくせにどうして今日は真面目に答えるの。私の心が死んでしまいそうだ。
全て捨てても良いと思った。
だけど彼はここに留まらない。
ただ日々の慌ただしさから逃げたい時だけ寄り付く狡い人。
そんな彼を愛した私が馬鹿なんだろう。
振り向いてくれるかなんてとうの昔に思うのを辞めた。
そんな私も、狡い奴。
「ま、自分が良いと思うなら、それが正解ってやつだ。次!ペンネーム、マリーミー!」
どうしてだろう。胸騒ぎが止まらない。
彼が忘れていったLUCKY STRIKEがチラついて、彼が急いで付けて行った私の使わない香水の残り香が漂うからか。
とにかく良くない何かが漂い鎖骨を撫でた。
ふとカーペットを見るとブロンドが数本落ちていて、拾い上げて身体が固まる。
「最近周りが結婚ラッシュです。未だ予定が無いのは私だけ…プレゼントマイクは理想の奥さん像ってありますか?あれば教えてください!って、なぁ………」
聞きたい、聞きたくない。
天秤が揺れ、揺れ定まらない。電源ボタンに手を伸ばし三秒。
「理想ってか、まぁ…俺ってば完全に尻に敷かれ、…………そうだしなぁ」
気が付いて耳が塞がる。その間に嵌め込める言葉は簡単に見つかる。
ぎゅうと指を掌に食い込ませ、絡みつくブロンド。
「料理出来て、お帰り、おやすみ、おはよう、行ってらっしゃいって言ってくれたらSoGood」
その全てを完璧にするのに、彼の大切な人になれない惨めな私が涙を流す。
けれどその涙は惨めなまま、指に絡まるブロンドを伝いカーペットへと逃げ込んだ。