第21章 ロミオの逆襲
同じフロアの上鳴くんと尾白くんが飯田くんを呼びに行っていると館内にチャイムが鳴り響いた。
そして軽快なイントロが流れ、あの食堂で感じた心地良さが全身を駆け巡る。
『Goode vening!皆もう予習は終わったかな?まだだよ〜って人!消灯まであと、二十分。急げ〜』
談話室に居る皆の目が何処か安心しきったような、そんな感じに見える。
涎を垂らして、今まで沈黙を守っていた峰田くんが呟いた。
「……こりゃ堪んね〜な」
『さて今日から消灯までの二十分、二年A組の私、まいかが皆の安眠の為に少しだけ館内ジャックをしちゃいます。でね、ツイット〜開設したからさ色々質問とかトークテーマ、送って欲しいんだ』
確かにこの声を聞きながら布団に入るとぐっすり眠れそうだ。
談話室にいる皆が、多分、いやきっとそう思っているに違いない。
『まぁね、今日は初めての館内ジャックだし皆私の事知らないだろうから自己紹介とか諸々しようかな』
その時、談話室に新鮮な空気が入り込む。
飯田くんがバツの悪そうな顔をして、静かに腰を下ろした。
「飯田くん……」
『名前はさっき言ったね。ヒーローネームは、ギフト・ボイス。個性はヒーリングボイスだよ』
「なんか、マイク先生のヒーロー名みたいやね」
しんとした談話室。ぼそりと呟いた麗日さんが慌てて口を閉じた。
『私ね、ずっと憧れていたヒーローが居たの。そのヒーローに近付きたくて追い掛けて……気が付いたら雄英高校に居たんだよね。皆にも居るんだろうね、特別な憧れのヒーロー!』
僕は後悔した。横に座る飯田くんの手が震えている。
視界の端で震えをキャッチし、僕は、なんて愚かな事をしてしまったのかと。
『そんな憧れのヒーローが、私の夢を叶えてくれたの。この館内ジャックをさせてやってって、校長先生に直談判してくれたんだ。本当に嬉しくて、私ね、卒業までずっと続けてやる!って決意したよね』
悪戯にクスクスと笑う声がして、スピーカーがふわふわ揺れる。
そしてぶわりと風が起こり、大きな声が耳を劈いた。
「皆に頼みがある!!!!」
そう叫び、飯田くんが消灯までの五分間、僕らに頭を下げた。