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ENCORE

第14章 夜明けのララバイ




「あ、っ……、ん」

枕に押し付けた頬が少し痛い。
だけどそれよりも背中を撫でる髪が愛おしい。

「腰、動いちゃってるぜ…」
「やだ、言わない、で…あ、ん…」

背骨をなぞる指がもどかしい、腰に食い込む指が愛おしい。

「あんまデケェ声出してると聞こえちゃうなぁ、お隣さんに」

ただ吐き出される彼の一言一言が全身の骨を軋ませる。その一言が私の五感、いや、六感を奪い去る。

「ね、も無理っ…お願いイかせてっ……」

突かれて転がる涙は、生理的なモノだろうか。
快感が形になって、シーツに溶ける。

「あぁ、じゃあ一緒に……」

そして決して交わらぬ私の愛液と、彼の白濁液。



「次はいつ来る?」
「わっかんねぇ」

並んで浸かる小さな浴槽は窮屈で、でも近くに居れる大きな口実だ。
バスルームに置かれた彼の愛用シャンプーにコンディショナー。まだ一度も切れた事は無い。
それはつまり、彼がこの部屋に来る頻度の低さを物語っていて目にする度悲しくなってしまう。

「けどフラッと来るから心配すんなよ、Sweetieちゃん」

引き寄せられた肌は蕩けて柔い。
纏め上げられ露になった首筋に唇を寄せた。

「おーっと、ストップ。ダメだぜ、俺ってば平日は先生してんだぜ?キスマークなんて付けてったらリスナーがドン引きすんだろ?」

知らないとでも思っているのだろうか。
ヒーロースーツで仕事をしている事を。
首周りにはマイクと指向性スピーカーの装置を付けていて、誰の目にも触れないのに。

薄々気が付いている。彼には心に決めた人がいて、だから私の痕を残さない。分かっている。だけど彼から、彼の口からその事実をはっきりと聞くまでは、知らぬ振りをしていたいのだ。

「ごめんね」
「構わねぇよ。…ほら」

誤魔化すように塗り重ねられる口付けは甘さなんて感じなくて、ただ、少し苦い。
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