第13章 weep weep weep
「まいかちゃんは好きな子いないの?」
昼休み、泥だらけのまま中庭でランチをしていると桃色の腕が私に絡まり付いてきた。
「いない、かなぁ」
お茶を飲む振りをして唾液を飲み込む。
恥ずかしい事ではないと分かっていたって、言えなかった。
「そうなん?!おりそうやのに!」
「お茶子ちゃん、興奮しているのね。お弁当が浮いているわ」
ふよふよと浮くおにぎりや卵焼き、赤いウインナーを見て、十五歳らしい学園生活を楽しむ。そんな毎日が嬉しくて、満たされる。
「けどウチのクラスにイケてる男子いないじゃん」
スマホに視線を落としたまま耳郎ちゃんが言う。
「えぇー?轟くんイケメンじゃん」
入学以来、姿を見れていない透ちゃんのジャージがパタパタと存在を主張した。
「爆豪さんもお顔立ちは整っているんじゃないでしょうか」
「峰田ちゃんは無いわね」
「瀬呂はいい人なんだけどねー」
ああだ、こうだと楽しげに話す皆を横目に、一人イヤホンを耳につける。
背骨を伝う重低音が心地いい。腹に響く音が、演習で減った私のヒットポイントを回復させる。
「意外」
左耳が急にクリアになって顔を上げれば三白眼が私を見つめていた。
「こんなん聞くんだ。今度オススメのCD貸そうか?」
「え、本当に?貸して貸して!」
今朝耳に流れたポップでアッパーな恋愛が出来ればいいのにと思う時もあった。
だけど今の私は自分の気持ちを重低音やギターの音色に隠すくらいが丁度いいと思うのだ。
彼はこんな可愛げのない曲を聴く子を好きにはならないだろうな。
陽射しを遮る緑を見上げて、少しだけ切なくなった。