第13章 weep weep weep
「なぁまいかちゃん、この歌知っとる?」
寝惚け眼で教室に滑り込む朝。麗らかな笑顔で私に声を掛けたクラスメイトが差し出したのは音楽プレーヤー。
そっとイヤホンを受け取り耳に流れる曲。
在り来りな恋愛ソングだった。
「音が単調ってーか、まぁパンチ弱いかな」
耳郎ちゃんの言葉に頷きながら聴き入った。良くある恋愛ソングで私の胸に響く程では無かった。だけど確かに、恋をする若い子には最高の応援ソングだろう。
「はい、先生来てから二分半経ちました。何してんだ」
「わ!先生!来てたん?!」
雄英高校に入学してから日々が早送りのように過ぎていく。目が覚め学校へ走り、気が付けばもう夜なんてざらだ。
「お茶子ちゃん、これ!」
「休憩まで持っとって!」
渡しそびれた音楽プレーヤーを手に、席へと向かう。
「おう!まいかおはよう」
「鋭ちゃんおはよう」
ここまでの感じ、私は誰にも恋をしてないように見えるだろう。
だけど実は隣に座る彼に恋をしている。
だけどさっき耳にした恋愛ソングのようにアタックするつもりも無ければ思いを告げる気も無い。
「今日丸一日演習だぜ。頑張ろうな!まいか!」
ただ、こうして期限付きで構わないから、名前を呼ばれて隣で彼を見ていられれば上出来だと思うのだ。
「鋭ちゃん、朝から元気だね」
「切島ァ、まいか。先生話してんのにいい度胸してんな」
出来るなら、この学舎を巣立ったあとも彼を見続けられればと思うのは少し贅沢な願いだろう。
だから限られた三年間で、振り落とされぬようにしがみつこう。
「はい、じゃあHR終わり。各自ヒーロースーツ持ってバス乗れー」
真赤な髪の毛を見て鳴るロック。
眩しい笑顔に心がハネる。
ふとした時に覗くあどけない横顔に、ユニゾンしてみたいと心が地団駄を踏む。