第11章 Boo
人の波にだって流されないの。彼の横なら。
「ファット!たこ焼き!持ってき!」
「おっちゃんおおきに」
「やだファット!また大きなったんちゃう?」
「せやろせやろ、愛らしいやろ〜」
飛び交う声に邪魔をされて会話だってままならないわ。それでも良いの。
だって、私の彼なんだもん。
「まいかちゃんしんどいんか?」
「なんでやの。楽しいよ」
見上げた彼の頬に青い髭が出来ていた。レンガの花壇に上がり、彼を引き寄せる。近付いた愛らしい顔に手を当ててティッシュで拭いてあげると彼が目を丸くして私を見つめた。
「青のり。ベタやな〜付いてたで」
「ほんま、ええ彼女さんやわ」
鼻の脇を掻き照れた顔だって私だけが見れるのよ。こんな幸せな事って他にある?
すぐさま差し出される大きな掌も、今は私だけのもの。
「ファット、今日の晩御飯は何にする?」
_____でも皆から愛されるファットガム。独り占めしたくなったらどうしたらええの?
_____せやなぁ、俺は今こうして口説いとる時点で独り占めされたい思うとるんやけどなぁ。
「まいかちゃんとゆっくり食べれるならなんでもええよ」
「ほんじゃ、まずは買い物行こか」
もうお互いいい歳よ。遊園地も水族館も体力が持たないの。ゆっくりと何でもない休日を過ごすのが二人には丁度いいの。
「まいかちゃんや」
「わ〜!久しぶりやないの!最近どないしとるん?顔出さんから心配しとったんやで」
私も一応店をやってるから、彼には及ばないけど顔は広い。
ミナミを歩けば馴染みさんにちらほら会うのよ。
「ファットの横にまいかちゃんアリ、やな」
そして、そんな風に二人の仲が染み渡る街も好きなの。
「お似合いやろ、おっちゃん」
「まいかちゃんみたいなええ子、ファット位やないと釣り合わんわ」
晴天に響く笑い声。伝染、伝染。声の大きい関西人だから笑いの輪が広がる。それが、堪らなく好き。