第11章 Boo
「おはようさん」
「ファット!!おはようございます!!」
扉を開けると元気よく挨拶をする少年とその少年の横から、するりと歩み寄る別の少年。
「…おはようございます、まいかさん」
「環〜!おはようさん。昨日のご飯はなんやったん?」
そう問うと、そっと指を差し出された。控え目に歯をカチンと鳴らすから、軽く指を噛む。
「甘いなぁ…なんやろなぁ」
「…かりんとう饅頭、頂いたんです」
「ああ〜、サトウキビ」
環と初めて会った時、私とは目も合わせてくれなかったのに今じゃこんな風に触れ合ってくれるようになった。
あまり負担になる存在なら事務所に行かないと言った私を、彼が引っ張って連れて行ったお陰、なのかもしれない。
「おいコラ!環!ファットさんのかわい子ちゃんにちょっかい出しなや」
「コラ!ファット!そんなおっきい声出したら環びっくりするやろ」
______大切にしてくれるなら、ファットガムの最高の女になったるよ。
______そらええわ。何が何でも大切にしたろ。
外に出れば、彼は市民に愛されるプロヒーロー。何処に居たってすぐバレるその身体の大きさと人懐っこさ。隣に居る私が下手な事をしては彼の名が汚れてしまうでしょう?
「朝飯行こか?」
彼がそう声を掛けると切島くんが首をブンブンと振った。
「久しぶりの休みなんすから!気にせずまいかさんとゆっくりしてください!」
眩しい笑顔で言うから思わず目を細めてしまうの。彼の事務所にやってくるインターン生が年々、我が子の様に思えて仕方ないのは年のせいかしら。
いや、きっと隣でたこ焼きを食べる彼のせいだろう。
「ほんならお言葉に甘えて今日はファット独り占めさせてな」
「明日は朝イチから会議なのでハメは外さない様お願いします…」
彼と過ごすうちに、狭かった心が広くなる。まるで彼の身体の様に。