第11章 Boo
「朝やで、起きや」
カーテンの隙間から光が漏れる朝、らしいのに部屋は真っ暗。
スマホを掴んで時間を見るともういい時間。
「なぁー、太ちゃん。なんで真っ暗なん」
昨夜の出来事で絡まった髪を払いカーテンを開く音を鳴らした彼を呼ぶ。
「そやなぁ、まだ夜なんかもな。って、な訳あるかい!俺が遮っとるんや。鋭い日差しから可愛いお姫さん守らなあかんやろ」
ちらり、意地悪そうに光を部屋に誘い込む彼を見て、枕に顔を埋めて私は笑う。
「あ〜ん。太ちゃん百点満点花丸やわ〜」
彼と同棲を始めて早数年。マンネリを迎えるどころか季節を超える度彼を好きになる。
_____ねぇファットガム。ずっとずっとお姫様みたいに扱ってや。
_____お易い御用やで。ばあちゃんなっても大切にしたるわ。
そんな下らない戯言をずっとずっと守る大きな彼に包まれて、私はずっとお姫様なのだ。
「今日はどうする?」
彼の顔が見えない位に高く積まれたパンケーキ。最早パンケーキに話し掛けていると言っても良いだろう。
「おデートやろ?その前に事務所にちぃ〜っとだけ寄ってもええ?」
「ええよ。仕事残っとるん?」
こちら側にある薄いパンケーキに黄金の蜂蜜を垂らして答えると、彼が惜しそうに牛乳から口を離して言う。
「ちゃうちゃう。環と切島くんが来てんねん。朝飯誘ったろかなぁ〜て」
「太ちゃん優しいわ。好き」
「おおきに。俺もまいかちゃんが好きやで」
彼が今食べている事に疑問は持たない。彼は食べてナンボ。食べてるだけで丸儲けなのだ。
「ウチの店はお休みやで、ゆっくりしよな」
小さなスナックをミナミの端っこで営む私と、市民を守るBMIヒーロー。
これはそんな二人のささやかな日常のお話。