第9章 Rewrite
いつも見ていた。教科書のページを捲る指、頬を掻く指。長く綺麗な、その指が今私の中にある。
ぐずぐずになっているのが初めてでも分かる。
ひとつひとつ確認するみたいに彼が探る。
擦り、押し、掻く。全てが良い気がした。
「……見つけた」
暗闇に浮かぶ彼のぼやけた輪郭さえ、私を壊す。
呟いた彼が一点を攻めだして、背中が仰け反った。
そして体が大きく跳ねる。
ただされるがまま。彼に身を委ねて時間が流れる。
恋人ではない彼に、全てを任せて捨てる。
「まいか、大丈夫か」
「ぅ、っかんな…い」
何かを裂く音も大体予想がつく。きっともうすぐ私は貫かれる。期待だろうか、幸福だろうか、満たされた胸がじゃぶじゃぶと音を立て揺れる。
「ひとつ、話がある…ショ」
「え?」
そして流れ出す。
「夏休み終わったら、イギリス行くショ…」
流れ出して、貫かれた。五感が鈍る。キツいと零す彼を見上げて、ハッキリ見えぬ表情に怖くなった。
そろりと伸ばした手でライトを付けると彼がギョッとした顔を見せた。
「泣くなよ」
「………痛いから泣いてるの…見ないでくれない?」
「じゃあ電気消せッショ」
ゆる、と打ち付ける肌が痛い。首に手を回し首筋に噛み付こうとしてやめた。代わりに、彼の首筋をこれでもかと濡らしてやった。
突き付けられた事実、必ず来る未来。
どう立ち向かえばいいだろう。抱かれてしまったら、もうどうしようもない気がして私は花園をぎゅうと締めた。
せめて明日、泣かないように胸いっぱいに彼の香りを吸い込んだ。
「まいかっ……」
責任なんて取らなくていい。
たった一瞬でも良いから、私を満たして。