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ENCORE

第9章 Rewrite


最後の秋を待たずに彼は静かに旅立った。
サヨウナラさえ言わずに、季節が終わった。
抉られた花園を埋めるものはどこにもない。同時に抉られた胸さえ、埋まらない。
だけど、彼が私に付けた傷。抉った其処に一人縋って日々を過ごした。


残りの高校時代はただただ駆け抜けた。
立ち止まってしまえば彼の香りが蘇り、振り返ってしまうから。
私のあの燃え盛った恋心は、全部嘘だと自分に言い聞かせて。


彼を追うかの如く大学へ行き留学を希望して私は一体何がしたいのだろうか。
狂った歯車はどうしたら元に戻せるのだろうか。
いっそ狂ったまんまでも良い気がしたのだ。
彼が居ないなら。それで。
彼がいる土地に居れるなら、それで。

見知らぬ街並みに慣れなくて、ただ並べられた日々を踏み潰して彼を探す。
探したって、見つからない筈なのに。


「まいか!」

クラスメイトが呼ぶ声に振り向いた。
視界の端。あの図書館で見た、間近で濡らした玉虫色が見えた気がした。

「ちょっ…どこ行くの?!」

走り出して息が切れる。
今でも胸が痛くて、泣いている。
治し方を知ってるのは、私を侵した彼しかいない。

スマートフォンを手に立ち止まる彼の背中。
もう、離したら、もう、会えない。

静かに歩み寄り、肩を叩く手が震えた。
怪訝そうに此方を向いた冷ややかな瞳に、胸のコップが盛大に割れた。
ずっと溜めた涙が割れたコップから流れ出す。

「まいか?おま、何でここに居るッショ?!」

あの時、聞けなかったサヨウナラ。
あの夏は消してしまおう。

目眩がするのは、柔らかな日差しの下で輝く七色のせい。

「はじめまして」

抉られ欠けたままの胸。せめてまた明日、満たされるようにもう一度。
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