第9章 Rewrite
「離せッショ」
「…離したら、もうこんなチャンス二度と無いでしょ」
噎せ返る様な柔軟剤の香りに目が痛む。
離してしまえば、彼はきっと届かない場所に行ってしまう。
「……俺は責任なんて取らねぇぞ」
振り向いた彼に、強く押し付けられた壁。
痛みを口にする前に重なった唇に脳が揺れる。
「ンっ…巻、しま……」
隙間で名前を呼ぶと額に手を当てられて視線を引き寄せられた。
ゾッとする程色がない。なのに艶めいて、背中が粟立った。
「裕介」
耳元で囁かれ、促されるまま、その名を呼んだ。
何度も、何度も彼を呼ぶ。それに反応するように、彼の手が私のシャツを奪う。
色気の無い、きっと彼が好まない下着を脱がされて、私は彼に押し倒された。
立派なのに、何処か寝心地悪いベッドで見上げた彼は何を思っていたのだろうか。
「痛かったら言えッショ」
初めて他人に見せた生まれたままの姿。
恥ずかしさも不安も怖さもかき消してしまう程に昂った感情。
「言わない」
言ってしまえば、止めてしまうでしょう?
貴方は、そういう人でしょう?
「無理すんな」
そうして始まる私の終わり。
控え目に私の体を探り出す手が擽ったくてもどかしくて、足をすり合わせてしまう。そんな小さな動作さえ、見逃してはくれない。
「足、開けるか?」
胸の間に顔を埋めて話すからムズムズして、体を攀じる。そっと足を開けば全身に巡る衝撃。
「本当に初めてかよ…」
少し笑って彼が言う。その顔に腹の奥が鈍く唸った。
溢れる蜜を指で掬い閉じた蕾を擦り上げる。
「ひっ…やだ…そこ変…」
「変じゃねぇ…良いんだよ…」
口元を押さえていた手をゆっくりと退かされ、また彼への思いが燃え盛る。
「裕介…」
初めて知る快感に泣けて来た。静かに流れる涙は部屋のライトを消して誤魔化そう。
「指、入れる」
衣擦れの音で、全部消してしまおう。