第7章 Again
「やっぱり変わんないね」
すい、と避けてまた歩き出すアイツ。急いで振り返り追い掛けようとした。三歩前でアイツが立ち止まり、くるりと振り向く。
季節外れの桜の香りが俺を覆う。きっとアイツの香水か何か。
「雪くんは、そのままでいいと思う」
「は?なんだよそれ」
「私、卒業式の日ね雪くんに言いたい事があったの」
だろうな、と脳内に居座り続けた顔を思い浮かべた。
「人は変わるよ。簡単、ではないけど、変わる」
すれ違う人は皆、楽しげで明日のことも過去のことも忘れて酔っている。それなのに、俺とアイツは今も、過去も未来も全部ごちゃ混ぜになった話をしている。
「今の私なら言えるの。雪くん、私ね」
「待っ、待っ、待った」
初めて触れた肩はゴツいコート越しにでも分かるくらい華奢で力を入れてしまえば、折れてしまいそうだった。
そんな、小さな身体でアイツは笑った様な泣き顔であの一言を言ったのかと思うと胸が痛い。
「おっ、俺が言う」
アイツの頬に差されていたのはオレンジだった。
だけど今は赤い。
「………今日は、帰んな」
「え…?」
不正解の言葉を投げたのは明白。
出来れば時間を巻き戻したい。そう思った。
「今日は帰るよ、雪くん」
むず痒そうにはにかんだ顔が、俺の心臓を一度だけ叩いた。
その一撃に反応するように、脈が踊り出す。
「っだ、だ、だよな。明日も仕事つってたもんな」
誤魔化そうと笑ってみて、そこからまた無言。
全く変えられてない現実はそっと見ない振り。
もう、駅まで送って帰ろう。地元に寄り付かないでおこう。
そうしよう、と情けない男に成り下がろうとした。
駅が見える。安蛍光灯の明かりがヤケに安心感を誘う。
券売機に近づこうとした。それを拒んだのは柔らかな手袋。
「雪くん。…ありがとう」
どんな意味があるのか、やっぱり聞けないのが悔しくて情けなくて、俺は静かに小銭を食わせた。