第7章 Again
「じゃあ」
改札を抜けた姿を見て、一言。やっと絞り出した。
きっと塔一郎に哀れみの目を向けられるに違いない。
ホームへと続く階段を登ろうとする姿を眺めて変に目頭が熱くなる。
きっと、多分、もうこんなチャンスは巡っちゃ来ない。
でももぅ、手を伸ばしても届かない。
ただ、じっと見つめて、夢に見る。
足を上げ、階段を一段登りアイツがぴたりと立ち止まり、そして改札まで駆け寄ってきた。
「雪くん。次は…次は帰らない」
最後の一杯だったカンパリオレンジの香りと、夢で見る桜の香りを起こしてアイツが俺の手を握る。
「あの時言ったまたねと、今日言うまたねは別物にしたい」
時間は十二時三分。もう時間は無い。だがアイツの言葉は止まらない。
「雪くん、私、雪くんが好き」
けたたましい音が駅内に鳴り響く。早く来いと、無差別に急かす。
「あ、お、うん…」
やっぱり俺は変わらない。だけどアイツは変わった。
強く強く手を握り、俺を引き寄せた。
「嫌なら突き放してね」
実際そんな余裕も無かった。ただ引っ張られ、桜の香りの出処を知る。柔らかな唇からほのかに香る桜の香り。
「雪くん、またね」
ただ、唇を奪われた衝撃と、またねと小さく手を振って階段を駆け上がる後ろ姿で頭が一杯になったんだ。
十二時六分。電車が出発する音がした。駅の外に出て走り出すその電車を眺めている。
次に会う時、十二時七分にアイツを抱き締めていられたらな、そんな風に考えて夜風に当たって俺は歩き出す。
「まいか、またな」