第7章 Again
「雪くん何飲む?お酒いける?」
「あーじゃあ生」
二十歳超えた位なんて見栄を張りたくなる年頃なのだ。まだビールの美味さを知らない癖に無難な道を選んでしまう。
「わ、飲めるクチ?おっとな〜」
メニュー表を脇にやり楽しそうに笑うアイツは化粧なんかしてしまって知ってるアイツなのにどこか他人みたいに思える。
伏した睫毛は黒く艶めいて、髪をかけた耳たぶからは青いピアスが二つ光っている。
「雪くんにまた会いたかったんだよ」
懐かしさ滲む騒がしさの隙間、アイツが零した言葉に意味があったのか。無かったとしても今だけはビールの泡のような脆い夢くらい見させてくれよ。
「まいか、今なにしてんの?」
「私?私は今社会人だよ」
ぽつりぽつりと交わしていた会話が漸く滑らかに滑り出す。早い段階での連絡先交換で今日のミッションは八割クリアした気になっていた。
会わなかった間、アイツは何をしていたのか、どうしていたのか。
溢れ出る思春期男子の名残。決してアイツをどうにかして既成事実を作りたいとか思っちゃいない。けど、今の俺なら、何か変えられるんじゃないかと思ってしまうんだ。
「雪くん、変わらないね」
八杯目のカクテルを舐めるように飲み出したアイツが笑った。
今朝見た夢の顔とは全く違うのに、脳内に浮かんで消えずに居座る。
「そんなすぐ変わんねーよ」
「変わるよ」
床についた手に、カクテルの冷たさを盗んだアイツの手が重なった。
「変わるよ、雪くん。私ね…」
「おーい!二次会行く奴ー!」
気になる言葉を、一番気になるタイミングで阻まれた。サッと離れた手の温度は簡単には離れなかった。