第6章 Not hold me
次はいつ、会えるだろうか。首にぶら下がる雫を揺らして考える。彼との出会いは運命と言える。あの日、出会わなければ、あの時、あの現場に遭遇しなければ、こうならなかった。出逢うべくして出逢った二人。
街の雑踏も心地好く感じるのも、彼のお陰。
すれ違う女子のキャッキャと弾む声が耳に転がり込んでも、それすら微笑ましい。
「チャージズマ、すっぱ抜かれて腹括るらしいよ」
「まじ?チャージズマ超遊び人じゃん。無理じゃね?」
「や、今回はマジなんだって!掲示板その話題で持ち切りだから」
転がり込んだ声は私の足を止めた。振り向き声の主を探そうにも見当たらず、胸が高鳴る。
約束事を全て守っていたのに、撮られた?
それを受け止め、彼が腹を括る?
信じられない出来事に涙が出そうになった。
急いで彼へ電話を掛けてみたが、出ない。よそよそしい機械音だけが響き渡る。
「あっちの街頭TV!チャージズマの会見やってるぜ」
どこからか聞こえた声が今度は私の足を急かした。
大した距離でもないのに息が切れ喉の奥がやたらと血の味がする。
そして手の届かない距離、デカデカと現れた愛おしい彼の姿に胸が締め付けられた。
瞬間、背後から鋭い刃物で貫かれた感覚に襲われ息がしにくい。
画面の上に書かれている文字を見て、目眩がした。
__若手プロヒーロー熱愛中!
「お付き合いはいつ頃から?」
眩く焚かれるフラッシュに囲まれ、はにかんで彼が言う。
「高校ん時からッス」
「今まで沢山撮られて来たけど、イヤホンジャック一筋だったと言うことですか?!」
耳を塞ぎたくなる質問が飛び交う。周りの騒がしい声を心地好いと思えないのは現実を受け止めたくないと抗う本能だろう。
「そうッスね。コイツにはめちゃくちゃ迷惑かけたんで…責任とろうかなって」
嬉しそうに問いに答える彼の横に居るのは、私の筈だったのに。どうして私は今、街のど真ん中で泣いているのだろう。
どうしてここに彼がいないのだろう。