第6章 Not hold me
だが彼との付き合いは約束事が多かった。
家へ来る前、必ず連絡をしなければならない。
帰るのは朝方。まだ人の疎らな時間帯。
口外禁止。写真すら許されない。
けど、彼の一番になれた、それだけで私の心は満ち足りて、幸せのコップが満杯になっていた。
あの日見た若い子だって、彼の一瞬の気の迷いと都合よく解釈出来てしまうのだから脳内お花畑甚だしい。
「まいか~」
「何?」
彼の呼び掛けに顔を向けると首に違和感が。
「前の出張ん時、見つけた。まいかに似合うかなって」
雫型の青い硝子細工のネックレス。また、ひとつ。私は彼に心を奪われる。
「わざわざ…?私に…?」
「ったり前だろ!まいかは大事だもん」
些細な言葉に、態度に、出来事に。私はひとつまたひとつと奪われ、蝕まれる。多少の疑惑も不信も、全部見て見ぬ振りをしてしまう。この幸せを失うくらいなら馬鹿な女の振りをしてあげる。
部屋の片隅に置かれた小箱に、私が持つ鈍色と同じものが来る度増える。
それが私の幸せを更に増させる。
「ありがと…本当に嬉しい…」
「泣くなよ〜!安もんだぜソレ」
「でも嬉しいの」
何気ない日々が彩られ、見て見ぬ振りだけが上手になっていく。
私は今、誰よりも彼に愛されている。根拠も何も無いのに、幸せの海を漂っていた。