第6章 Not hold me
「誰それ…」
約束を破ってしまったのは、私だ。
驚かせてやりたいなんて、どうして思ってしまったのだろうか。床に落としたスーパーの袋。在り来りな光景に笑ってしまえば良かったのか。
「え、いやぁ〜…連絡してって言ったよな…?」
「チャージズマ……」
シーツで身を隠すのは随分と若い子のように見える。くるりと踵を返し来た道を戻った。そうね、きっと若い子の方が何も考えずに楽しめる。先を見なくても良い。むしろ私だってただの遊び。それに気付かずただ堕ちていただけ。
「まいか!待てって!なぁ!おい!」
歳を取れば、気付かぬうちに化粧も濃くなる。泣いてしまえば、それはガラスの仮面。ボロボロになる。だから名を呼ばれたって振り向けなくて、立ち止まれなくて。
「…まいか」
静かに掴まれた手首が熱い。止まらぬ涙に、私は彼が本当に好きなのだと痛いくらいに思い知らされた。
「見ないで」
「いや見るし。てか話聞けって…」
「聞いて私、笑える?またこの道歩ける?そうじゃないなら何も言わないで。話なんか聞きたくない」
道行く人が彼に気付き出す。プロヒーローが街中で痴話喧嘩なんて。
手を振りほどこうとしたその時、引き寄せられた。暖かさが私を包み、言葉が降ってくる。
「ごめん。魔が差した。まいか傷付けて最低だよな…」
弱々しく降り注ぐ言葉の雨。私は何も言えず彼の心臓を濡らすだけ。
「ずっと考えてた。けど付き合うとかそういうのでまいか縛り付けんの違くね?って思ってたから言えなかったんだわ…」
街の煌めきがこんなに眩かったなんて、私は今まで全く気が付かなかった。ビルの灯りさえ、綺麗だと思うのはきっと彼のせい。
「付き合おっか」
その一言に、私の全てが花開く。
「遅いよ、バカ」