第1章 intention
彼の気持ちを聞いたのは高校一年の救助演習の時だった。
USJでの救助演習に慣れだして隙が出来たのが仇となり私は瓦礫の山に埋もれてしまったのだ。
「まいか!大丈夫?」
先生を呼びに行く者、瓦礫を退かそうとガラガラと音を立てる者。額から血が流れているのを何処か他人事の様に瓦礫の山を眺める私。
「まいか!!」
どれだけ時間が経っただろう。数時間、いや数分。瓦礫の隙間から差し出された掌を少し朱色に染まる視界で見つけた。
握った手はとても細かった。でも、とても暖かかった。
「今っ…今助ける!!」
聞き慣れない声だった。誰の声だろう、頭の生徒名簿をぱらぱら開いても見当たらない。この声を、私はあまり知らない。
繋いだ掌を離さぬよう、強く握り握られ、辺りがどんどん明るくなっていった。
「良…かった」
ゆっくりと掌から目を離すとそこには、涙目になった彼がいた。
「相、ざわだったかぁ~」
気を失って、目が覚めて。リカバリーガールや教科担当、担任にこっぴどく叱られて、その日は終わった。
彼はずっと側に居た。
「相澤、授業は?」
「何かあったら大変だから、今日は付き添う」
寝心地の良くないベッドに横になり私が問うとそっぽ向いて彼は吐き捨てるようにそう呟いた。
するりと布団から手を出して、彼の掌を握ってみた。大きく揺れた彼の肩が堪らなく愛おしく思えた。
「ありがとう、助けてくれて。相澤、超ヒーローじゃん」
そんな一言に、彼はぶわりと風を起こしてこちらに向いた。
「居なくなると、思った…。そしたら、そしたら体が勝手に…」
見れば耳が真っ赤になっていた。力無く握り返された掌が小さく震えているようにも思えた。
「居なくならないよ」
丁度、こんな寒い冬の日。掌を重ね、額を合わせ、互いの膝に涙を落とし合った。