第5章 BLOOD SPLASH
共に過ごす時間が増え、マスメディアや市民からの彼のイメージは少しずつ良くなっていった。
「爆心地!今回も良い暴れっぷりでした」
「アア?ったりめーだろーが。舐めんな」
そうやってリポーターに噛み付きながら、市民を丁寧に救い出す姿に皆の心が動かされていたのだ。
「かっちゃん」
「事務所来んなっつっただろが」
彼の事務所へ出向くと、サイドキックや他のヒーローが口々にこう言う。
「まいかちゃんと付き合い出して爆心地が変わった」
そうじゃない、私は何もしていない。彼が、彼自身で考え、変わったのに。
そんな言い表すことが出来ない後ろめたさや違和感に苛まれる日があった。
「はよしろ」
それでも何も言わず、半歩先を歩く彼が好きだった。
静かに二人のペースでいつか、そう思っていた。
眩い光に囲まれる迄は。
「爆心地!そちらの女性は恋人ですか?!」
変わりない日常、スーパーで今夜の献立を話し合っている最中、唐突に声を掛けられた。
「…ア?んだテメェ…」
サングラス越しに睨み付ける横顔に目を奪われる一瞬前。眩いフラッシュが焚かれた。
「ッ…」
彼の甘い香りが強くなるのを察知して、袖を引いてカートを置き去りに走り去った。
その日を皮切りに自宅には常に人集りが出来、少しでも顔を見せようものなら恐ろしい光に襲われた。
テレビを付けても、雑誌を開いてもモザイクをかけられまるで犯罪者のような自分の姿を目にするようになった。
「まいか…大丈夫なんか…」
言葉少なにそう問う彼は悪くない。悪くないのに、彼が昔一度だけ好きだと言ってくれた笑顔を向けてあげられなかった。
「大丈夫、じゃないかな」
「…なんかいるモンあったら言えや。帰り買ってくる」
外出も儘ならない日々に疲れ切っていた。
きっと、彼もそうだっただろう。でも私は、私しか見えていなかった。