第21章 ロミオの逆襲
「人を好きになるとはどういう事か。俺が今、あの女子生徒を見て浮かぶ気持ちはなんなのか。由緒ある雄英高校の敷地内で教師であるマイク先生に言い寄る姿を見て、なんとも言えない気持ちになるんだ」
珍しく背中を丸めてそう語る飯田くんを見て僕はまた轟くんと目を合わせた。そして何も言えずにほんの少しの休息、昼休みが終わる。
そんな飯田くんの心の内を聞いて数日。
寮へ戻ろうと廊下を歩いていると向こうに見慣れた影が二つ。
「マイク先生ありがとう!本当に嬉しい」
「いーって事よ。まぁ消灯までの二十分だけだしな」
この場に飯田くんが居なくて良かったと、心の何処かで思いながら僕はその影に静かに近付いた。
「どうしたんですか?」
急に話に割って入るのもどうかと思った。
聞いてどうするんだと。でも気が付けば先生と先輩の視線は僕に向いている。
「いやぁ、この女子リスナーがいずれラジオやってみたいって言うからじゃあ練習がてら寮で館内ラジオでもしてみたらってな」
「マイク先生が校長先生に直談判してくれたの!私の為に!」
マイク先生が自分の為に動いてくれた。恋をしている先輩からしたらさぞかし嬉しいことだろうなぁ……。
「あっ、貴方緑谷くんでしょ?私二年のまいかって言うの。よろしくね」
呆気に取られる僕を置き去りに手を取り、大きく振る先輩はまるで台風の様だった。そして一頻り僕の手を振り回し先輩は走り出す。
「マイク先生、あの……」
サングラスの奥に、細めた瞳。少し渋い顔をしていた。
「……夢はバックアップしてやりてーって思うだろ。生徒の」
ひらひらと手を振り先輩が走り出した方向とは逆に先生は歩き出した。そんな二人の真ん中で僕は飯田くんの笑顔が頭に浮かんで、鼻の奥がつんとした。