第21章 ロミオの逆襲
「いつ来ても人すごいね」
お盆を持ちながら空いてる席を探していると、飯田くんが彼方を見つめていた。それはとても悲しそうな顔で。
視線の先には特徴的なヘアスタイルをした雄英高校の教師であり僕らが目指すプロヒーローのマイク先生がいた。そして側にはひとつ学年が上の女子生徒。
「マイク先生、いつデートしてくれんの?」
「だぁーから、女子リスナー。そう言ってくれんのは有難ぇんだけど俺ってば年上が好みなのよ、分かる?」
宥めるように、普段より小さな声で言うマイク先生とは反対に、女子生徒の方はどんどんと声が大きくなっていく。
「うわぁ奇遇!私も年上が好みだよ」
その女子生徒の声が大きくなりはっきりとこちらに聞こえるようになると、どこか心が安らかになっていく。耳が痛くなるような女性特有の甲高い声の筈なのに。
「個性……なんだろう?なんだか心地良い……ミッドナイト先生に似た個性……いや眠くはならない………リカバリーガールに似ている……少し違うな心が安らぐと言うか………」
ここ、雄英高校には沢山の個性を持った人がいる。それら全て、僕にとっては貴重な情報だ。つい悪い癖が出てしまう。
「行こう」
穴が空いてしまいそうな程、見入っていた飯田くんが静かにそう言った。
「飯田…」
「飯田くん」
広い背中がなんだかとても小さく見えて、美味しいはずの昼食が今日は喉を通りにくかった。
「飯田、あの人が好きなのか?」
なんとか食べ終わりお茶を啜りながら轟くんが直球で聞くから僕は鼻にお米が入ってしまいそうになる。
「いや、俺はあんなタイプの女性は好みじゃないさ」
明らかに肩を落とすからやっぱり分かってしまうし、こういった事に少し鈍感な轟くんにも分かってしまったようだ。
僕と轟くんは目を合わせて、それから彼を見る。
「それに彼女はどうやらマイク先生にお熱のようだ。俺が出る幕なんてないよ」
半ば自嘲気味にそう言うから、机をドン、と叩いた。
「あっ……ごめん思ったより音が響いちゃった………あっいや!飯田くんらしくないよ!」
目を見開いて飯田くんが何かを言おうとした。
けど言葉は出てこずに沈黙が流れる。
「どうすればいいか分からないんだ」
あと少しで終わってしまう昼休憩。
飯田くんはぽつりぽつりと話し出す。