第21章 ロミオの逆襲
最近、僕のクラスの委員長で友人の飯田くんがおかしい。
「後学の為に聞きたいのだが」
そう言ってはクラスの皆に話を聞いて回る。
飯田くんは恥ずかしさを隠しているのだろうけど、耳まで気が回っていないようで皆にはなんとなく、バレている。
「もしも親しくなりたいと思う人が現れたらまず最初に何をすべきだろうか」
問い掛けられたのは口田くんだった。人選ミスとは正にこの事。
顔を赤く染め答えに困っている口田くんの代わりに口を開いたのは常闇くんだった。
「まずは挨拶、それから自己紹介だろう」
成程、と姿勢良く頷きながら飯田くんは一歩前に進む。
「その次は、どうすれば」
顎に手を添え眼鏡に捉えたのは切島くん。
きょとんとした顔でジュースを吸い上げ、ストローから口を離していつものように元気良くこう言った。
「話す!漢らしく!」
「それはあまりに短絡的ではないだろうか……もしも相手が俺と話したくないと思っていたら?」
切島くんの答えがしっくり来なかったのか、飯田くんは手を大振りに動かして反論をした。
まさかの反論にたじろぐ切島くんに助け舟を出したのは蛙吹さんだった。
「考え過ぎよ、飯田ちゃん。興味を持たれて嫌な気になるなんて滅多に無いわ」
「だが、今の流れで行くとまず挨拶をして自己紹介……それから急に話し出す、…………ホラーじゃないか」
指を振り振り、流れを確認した後くわっと目を見開いた飯田くん。見兼ねて上鳴くんが口を挟んだ。
「なるようになるって。なんだよ!好きな子でも出来たのか?」
そう問われ、まるで熟した林檎のように頬を染めたから、皆が察した。
「いっ………いや、決してそんな事はない、ない…………」
僕は窓際でそのやり取りを眺めつつ、あぁもうすぐ長かった冬が明ける、と暖かな陽気に目を細めていた。
「緑谷」
「轟くん!」
ちら、ほらと食堂に向かう人の流れを横目に僕は立ち上がった。
「早く行かねーと、席座れねぇ」
「そうだね、早く行こ」
赤く染まり、立ち尽くす飯田くんを引っ張って広い広い食堂へと僕達は歩き出す。