第20章 Dawn rain
駆け出し、鞄も靴箱の鍵も持たずに店を飛び出した。
街は明るく賑わっていてやはり私はひとりぼっちが似合うのだと卑屈にさせる。
そろそろ埃を払って額を使おう。泣いてどうする。
荷物も靴も、いらない。帰りの新幹線の切符だって、いらない。
雨が降り出した。細かく降る雨が私の旋毛を濡らす。
裸足で泣き歩く私はきっと気の触れた奴に見えるだろう。
不快感と開放感に包まれる足を一歩踏み出そうとして後ろに引かれた。
「…相変わらず足、速いね…」
またあの日と同じ。私の方だけ雨が降りしきる。
彼に私は似合わない、そう思わせる雨。
顎の辺りを拭うのは、汗だろうか。
「あの、…まいかさん」
掴まれた腕を振りほどけないのは今更額を使えないと心が地団駄を踏むから。
「み、緑谷くんは…戻りなよ」
「雨、降ってきたから一緒に戻ろうよ」
あの日より、少し高くなった彼の目線。
流れた月日は余りに残酷で、心がまた腐りそうになる。
「ほっといてよ…私の事はほっといて」
強がりを言うのは傷つきたく無いから。
「ほっとけないよ。もう日付も変わるよ?雨も降り出したしまいかさん靴も鞄も置きっぱなしじゃん」
その誰にも平等な優しさが私の心を腐らせる。ひとつ、小さな思いを朽ち果てさせたのに、更に私の心を奪い取るのか。
「緑谷くんのそういう優しさ嫌いだな」
俯いて零した言葉。彼の指先が濡れている。振りほどこうと力を込めた。
「ね、ほっといてよ。今日は濡れたい気分なんだ」
涙もきっと気付いてはくれないんだろう。だって雨も頬を濡らすから。
「ほっとけないよ、久しぶりに会った初恋の人が泣いてるんだもん」