第20章 Dawn rain
「好きだよ、私。デクくん」
急に酔いが回り始めた感覚。
へぇそうなんだぁ、と長机に吐息と一緒に滑らせてみて何かが込み上げる。
「けど、雄英で感じた好きと、ヒーローになって感じた好きは違うかな」
カクテルを流し込んでぺろりと上唇を舐めて陽気が立ち上がる。
「デクくんはずっと好きな人居たよ。雄英の時からずっと」
そこまで言うと真後ろの引き戸がスっと開いた。
わぁ、と沸くから追加注文の料理じゃなくて、渦中の人が来たことを察知した。
「デクくん!遅かったやん!」
「わぁ!麗日さん!」
頭上で繰り広げられる会話をツマミに梅酒を舐めていると、陽気が言った。
「デクくんココ座りなよ」
ぶわっと舞った空気。外気の鉄臭さに目を細めて横を見れば、制服を着たあの頃から今までずっと私の心を掴み離さない彼が笑っていた。
「久しぶりだね、まいかさん」
スッキリと刈り上げられた髪、そこから伸びる首は逞しく以前よりもハッキリと出た喉仏にどうしようも無く心が疼いた。
「久しぶり緑谷くん」
流れる無音が痛くて手元のシガレットケースを手繰り寄せ火をつけた。四方八方から投げ込まれる彼への歓迎の言葉に煙が揺れた。
「まいかさん煙草吸うんだ」
「あ、嫌だった?ごめん」
消そうと灰皿を探すと手首に温もりが乗る。
「ううん、大丈夫。なんか意外だなって」
柔く笑んだ彼が首を振る。そして運び込まれたビールジョッキ。
辺りは皆出来上がっていて、彼の歓迎もそこそこにまた盛り上がりに火がついた。
「皆変わんないね。…まいかさん、乾杯」
そっと差し出された満杯のビールジョッキに、底が見え始めた梅酒をカチンと打ち鳴らした。
静かに、二人で、宴の始まりの音を奏でた。