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ENCORE

第20章 Dawn rain


慌てて追い掛けた大きめの個室。
各自好きなように座っているのだろう、空いているのは入口付近。
仕方なく腰を下ろすとすぐさま差し出されたビールジョッキ。

「緑谷くんがまだ来ていないが、今日は良く集まってくれた。皆の活躍を日々テレビやニュースで………」
「飯田長いよ〜!」

相変わらずの飯田くんを遮る桃色。どっと沸くのは久しぶりだからだろう。

「とりまお疲れって事で!カンパ〜イ」

そして場を盛り上げる力を秘めている上鳴くんが高らかに音頭をとると、あちこちで硝子がぶつかる音が響いた。

近況報告を互いにし合い、それに飽きたら思い出話に花が咲く。
なかなか上手く入れない私は冷っこくなった焼き鳥を口に入れて咀嚼する。

「でもさ、緑谷ってマジでオールマイトに似てきたよな」

個室の奥からそんな会話が聞こえて、咀嚼を止めた。飲み込むにはまだ早い、肉の塊を舌の上で転がしていると隣に陽気が舞い降りた。

「飲んどる?」

片手にカクテル、もう片手にはガラケーから進化したスマホ。
少し席を詰めると、よいしょ、と陽気が座り込む。

「まいかちゃんめっちゃ活躍しとるね。いっつも凄いなぁって思ってる」

そんな言葉を素直に受け取れない私は乾いた笑いを梅酒に浮かべる。

「お茶子ちゃんも事務所構えて凄いよ」

精一杯の返しも、それで合っているかが分からなくてまた戸惑ってしまう。

「ウチ貧乏やったやん?だからちょい焦った感もある。けどデクくん見よったら負けれんって思って」

からんと鳴く氷。言葉に詰まって、喉が痛くなる。

「…お茶子ちゃん、って緑谷くんの事…」

そう言いかけて麗らかな笑を見てまた言葉に困る。言ってどうする、怖くて聞けない。

「デクくん?」

首を傾げて笑う仕草すら、麗らかでこんな子に私が敵うはずが無い。どこか諦めにも似た感情が石鹸水に空気を送り込んだみたいにぶくぶくと盛り上がる。

「好き?緑谷くんの事。事務所の同僚が二人の関係、気になるなって言ってたの」

横目で陽気を眺めて乾いた口を潤した。少しの間があって、うん、と隣で小さな唸り声があがる。
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