第20章 Dawn rain
「わぁ〜!爆豪!まいか!こっち!!!!」
待ち合わせの三分前。既に懐かしい顔触れが揃う待ち合わせ場所で、桃色の肌が私達を呼んだ。
気恥しさと、不安で下手くそな笑顔を浮かべれば紅が小さく揶揄う。
「……おめェそんなんでケリつけれるんか」
「うるさいな」
久しぶりだね、と口々に飛び交う輪に入れているだろうか。ぽつんと疎外感が体を蝕む直前、声がした。
「じゃ、そろそろ行こっか」
ふと辺りを見渡して、立ち止まる。一人、いないではないか。
「…え、緑谷くんは?」
やっと口を開いた私に視線が集まった。そして麗らかな陽気が私を包んだ。
「デクくんな、仕事が長引いとるみたいなんよ。だから先行っとってってメッセージ来た」
ちくり、ちくりと私の胸を刺す陽気。棒のような息を吐き、私はただ、そうか、と一言呟いた。
「早くしねーと予約時間になっちまうぞ!」
イケメンヒーローランキング常連の切島が大きな声で叫んでいる。遅れを取らぬよう歩き出して痛み。このタイミングで踵がズキズキと暴れだした。
「足、痛いんか」
ぴたりと側に張り付いた紅が問い掛けて、私はまた首を横に振る。
そんな私を見て、溜息を吐いたと思った次の瞬間、体が浮いた。
「ちょ、爆豪!降ろしてよ」
気がつくと肩に担がれていた。素早く脱がされたハイヒールは紅の手に。
そして私は紅の肩に。
「ちんたら歩いてっからだろーがクソが」
のし、のし、と歩く姿に街がざわつくのに、降ろしてはくれない。クラスメイトも、笑っているだけで恥ずかしさで消えたくなった。
担がれ辿り着いた大衆居酒屋の前でふわりといい香りが私の前に降り注ぐ。
「まいかさん、これ……」
学生時代、ずっと纏められていた長い黒髪が揺れた。
「百ちゃん、ありがとう」
差し出された掌には絆創膏。静かに受け取り、紅を追う。
「靴箱の鍵は?」
「一緒にいれた」
ああそう、と返すと手を引かれた。
ぞろぞろと先を歩く集団から離れてしまうと焦る素振りを見せれば舌打ちをされた。
くるりと踵を返し靴箱まで戻ったと思うとまたこちらに歩いてきて何かを私に押し付ける。
「いいか、今日ここを出る時にお前が一人だったらもう俺のモンになれ」
先程と同じ事を小さく言って、額を一度突かれて置いてけぼり。