第20章 Dawn rain
流れて行く景色がどんどんと懐かしさを滲ませる。
窓を見詰めてごくりとつばを飲み込んだ時、隣から声がした。
「おめェまだデク好きなんか」
今そんな事を言うか。通路では車内販売が愛想を振りまいているのに。ガタゴトと車内に響く音が紅の声をかき消した。
聞こえなかった振りをして、窓の淵に肘をついてやり過ごせばまたあの日の様に手首を掴まれた。
「……痛いよ、爆豪」
静かにそう言えばやり過ごせると思っていた。
あの頃の紅なら、これ以上何も言わないと、そう思っていたが時は流れて何巡目か。
「じゃあ答えろやクソが。……好きなんか」
「そもそも好きじゃないし」
またあの日の様にひとつひとつ剥がそうと手を上げた時、紅がそれを拒む。
「俺にしとけ」
サングラスのテンプルが頬にぶつかり、耳元でそう囁かれた。
「絶対嫌だ」
即座にサングラスのブリッジを押して言うと首根っこを引かれてまた言葉が降る。
「おめェ顔に書いてあんだよ。デク好きって。クソ目障りだから上書きしてやるわ」
「爆豪は友達だし」
外は少しずつ暗くなる。目的地まで後少し。
だけど、長く感じるこの車内の雰囲気が私を鬱々とさせる。
「俺はお前を友達として見た事なんざねェわ」
「ひどいな。私はずっと友達だと思ってたのに」
わざと噛み合わせずに会話を繰り広げてみるが、いまだ掴まれたままの手首は暖かい。
七時から始まる同窓会にはギリギリかもしれないなと、券売機の前で遅めの新幹線を選んだ自分を殴ってやりたい気持ちになった。
「……聞いとんか。……あのクソデクに泣かされるお前なんざ見たくねェんだわ」
手首を引かれて、触れ合う寸前の唇。甘い爆豪の吐息に少しだけ目眩を起こしそうだった。レンズ越しに見つめられて、また揺らぐ。
額に入れて飾ってやろうと思った朽ち果てた思いは、今もまだ胸にある。だけど、捨てるべきなのか。
今日私が新幹線に乗った意味を思い出し、端正な顔をじっと見て首を横に振る。
「ありがとう。けど自分でケリつけるよ……もう私、泣かないし」
そう言って、流れていた景色が止まる。
ざわざわと動き出した車内で、まだ座ったままの二人。
「今日帰る時、おめェが一人だったら素直に俺のもんになれや」
立ち上がりそう吐き捨てて、紅と私は改札を抜けた。