第20章 Dawn rain
新幹線に乗り込んで脚が痛む。
同期に見立てて貰った服はいつもとは違うワンピース。
そして背筋に物差しを這わされた気分になるハイヒール。
あの桜から数年が過ぎた。もうアルコールもシガレットも誰にも気を遣わずに楽しめるようになった。
どんな顔をして会えばいいだろう。ずっとずっと、顔を出さなかった同窓会に私などが行って良いのか。
不安が体重に重なってふかふかのシートに沈んでしまいそうだ。
目を閉じて、微睡んで、意識が離れた。
気が付けば夢の中。思い出すのは二度目の桜。
「まいかさん!こんな時間まで予習?」
寮での一幕。彼への思いが朽ち果てだした頃。
深夜、一人で課題とにらめっこをしていたあの夜。
「ん、なんか寝れなくてさ」
声を聞き、伸びをして答えてみて間が空いた。
ノートを畳み散らばったペンを掻き集めていると彼が静かに私を呼んだ。
「まいかさんこっち」
あどけない笑顔に吸い寄せられて人差し指を視線で追った。
いつもなら、彼の隣にはぽかぽかとした陽気があったのに、その時だけは私が居たんだ。
「きっと来週には満開だよ」
そばかすが眩しいと思った。月明かりが照らすのは立派な桜。五分咲きの桜。
「ねぇ、緑谷くん」
夢の中なら、続きが聞ける。あの頃の私じゃあ聞けなかっただろうこの続き。
「お茶子ちゃんが……」
夢なのにヤケにリアルで手がぬるぬると滑る。
甘い香りが鼻を擽り眉根が寄った。
「……い……ほづ……ら」
夢だから、あの時あの場に居なかった紅の声が聞こえたって不思議じゃない。
「…ん、爆豪邪魔しないでよ」
目を一度固く瞑り口に出して、冷や汗が出る。新幹線の中なのに、寝言を言ってしまったと焦って目を開けて、夢から覚めれないとまた焦る。
空席だった筈の隣には、夢にいた紅が私を睨んでいた。
「は?なんで爆豪がいるの?」
ライバンのサングラス越しに分かる紅、久方振りの紅。
「あァ?同窓会だろが。おめェも行くんだろが」
どっかりと腰を下ろす紅から少し身を離し、座り直して無言。
実力派ヒーローは人気者。サングラスを外すこと無く紅は座っていた。