第20章 Dawn rain
「今日、今この瞬間から皆さんはプロヒーローです。ですが三月末まではまだ雄英高校の生徒だ。自覚を持って過ごしなさい…。……卒業、おめでとう」
見慣れた担任が、見慣れない正装をして最後の挨拶をしている。
ぐるりと教室を見渡して、こんなにも狭かったかと不思議な感覚に陥った。あぁ、そうか、この広い校舎全てに思い出が詰まっていて息苦しく感じてしまうのか。
今生の別れでは無いのだから、今は笑ってサヨナラしよう。
そう寮の談話室で言ったのは飯田くんだっただろうか、くだらない事を思い出して人生最後のホームルームを終えた。
「まいか〜」
荷物を手にした時、桃色が私を呼んだ。
左手に絡まり付いて話し掛ける。
「今日七時から打ち上げあるんだけど来るよね?!」
クラスのグループトークで盛り上がっていた話題。私は反応せずにいた。行く気が無かったから。
「私明日朝イチで引越しなの」
私を雇ってくれたヒーロー事務所の先輩は言った。
学生時代の仲間は一生物だと。きちんと悔いを残さずゆっくりおいでと。
だけども私は首を横に振る。すぐに行くと。
「え〜!でも少しくらいいいじゃん」
揃いの制服も今日が最後かと、妙にセンチメンタルになりながら愛想笑いを浮かべた。
「どしたん?」
その時、今日という日にぴったりの麗らかな陽気が現れた。
「まいか打ち上げ来ないって言うんだよ」
「えぇ?なんで〜!折角だからおいでよ!」
空いた片手を掴まれて胸がチリッと焼けた。
朽ち果てた思いが燻されてたちまち嫌な何かが胸を満たす。
「行かないってば」
和やかだった教室内がピンと張り詰める。
その変化にいてもたってもいられず声を振り絞ろうとしたその時。
「どうしたの?まいかさん……」
恋焦がれた柔い声がして、思わず言葉に詰まる。
「引越し準備、まだなんだ…だから行けないの」
やっと出た言葉。言い捨てて走り出す。
あそこに居たら、全て流れ出てしまう。屋根がある。涙が隠せない。