第20章 Dawn rain
「まいかさん、濡れちゃうよ」
人も疎らなグラウンド。授業の後片付けが一段落したある日の昼前。
あちらの空は晴れていて、こちらの空は雨が降る。
なんて変な天気だろうか。
まるで彼と私は住む世界が違うと言われている気がした。
「気にしないで、先行ってて」
「でも……」
何時からか彼の全てに恋をしていた。
何度も思いを告げようと拳をキツく握りしめたが、それは何時だって陽気に阻まれる。
「デクくーん!早よ行かんと席埋まっちゃう!」
「麗日さん!今行く!ほら、まいかさんも」
差し出された彼の手をぱしんと払い除けてハッとした。
「着替えていくし、ほっといて」
「……あ、じゃあ…先に行くね」
走り去る背中は出会った春よりも逞しく見えた。
微かに触れた掌を抱き込むように覆い溜息を吐くと不意に甘い香りがした。
「何しとんだ」
「なんにも。って言うか、寒いからさジャージ貸してよ爆豪」
降り出した雨が髪を伝う。わざと前髪を撫で付け溢れる涙を誤魔化した。
「ジャージくれぇ自分で用意しろやカス」
そうがなり立てる癖に肩に紅が使う柔軟剤の香りが乗った。
「爆豪は優しいね」
「ハッ……風邪ひかれたらクソ面倒臭ぇだろが」
「あ、看病してくれるんだ」
私は彼には似合わない。彼の隣には何時だって陽気が居て、麗らかな温もりに包まれていた。
遠くから見つめていただけの日々。その中で実った初恋の果実は、ただ実り、ただ朽ちていく。
二年目が始まる少し前、ぽとりと落ちた果実は朽ち果てて心の隅に転がった。
触れてしまえば崩れ落ちるその思いをどうする事も出来ずただ、心の隅に置きっ放しにしていた。