第18章 Sweet alyssum
「昔はなぁめっちゃイケメンと付き合ったりとかお金持ちと結婚したいとか思うちょってん」
「……ああ」
テレビから聞こえる笑い声を払い除ける様に、彼が私の髪を撫でる。擽ったくて愛おしい、その仕草。
「けどなぁ、諒ちゃん覚えちょうかな。初めての諒ちゃんの誕生日の時さぁケーキ落とした時あったじゃろ」
「あったのう、そんなことも…」
巡る季節、巡る記憶。どれも気を抜いてしまえば色褪せていきそうに脆いのに、どうしてか彼との全ては私の体に染み付いて、消えなくて色濃く刻まれる。
「あん時なぁ、私ほんまに申し訳なぁて泣きそうじゃったんよ。諒ちゃん怖かったし。嫌われるわぁっておしまいじゃあって」
カーテンもテーブルも、全部私の好きにすればいいと任せてくれた。この部屋は私と彼が混ざり合う。
「でも諒ちゃん私に言うたんよ。怪我ァ無いかって。それが嬉しぃて。私は一生諒ちゃんが好きじゃわって思うたよ」
「何じゃそれ。派手に転けたからじゃろ」
まだ一緒に暮らしていなかった頃、待ち合わせ場所に来た彼に駆け寄ろうとして、転んだ私と転がった箱。
彼は一目散に駆け寄って、こう言った。
「阿呆じゃなぁ。ほら怪我ァ無いか?何じゃケーキか?」
そして箱の隙間から中の惨状を見て笑った。
「イチゴのショートケーキじゃ。プレートは折れちょらんしイチゴも無事じゃ!まいかモッとるのぅ」
差し出された手はまだハッキリとグローブ焼けがあった。
「それからな、私は絶対に諒ちゃんとずっと一緒に居りたい思うたんよ。ほんまに、ありがとう」
「な、なんじゃあ、改まって気色悪いのう。ボーナス出るまで何も買うちゃらんぞ」