第18章 Sweet alyssum
「喧嘩しても、落ち着いてみて諒ちゃんと離れる事考えたら辛ぁてやれんかった」
「喧嘩した後のまいかはほんま手がつけれんからのぅ」
はにかむ笑顔も、出来れば私だけのモノにしたい。
そっと伸ばした手。彼の左耳。
彼がずっと付けていた鈍く光るピアスに心を奪われたのは出会ってすぐ。
「ええピアスやね」
「あぁ?…古いヤツじゃ」
「私は好きよ」
そんな会話も簡単に思い出せてしまう。
「まいかはつけんのか」
さらりと攫われた髪の毛。不意にあたる外気に耳が熱くなったのも今でも思い出せるんだ。
「良いのがなかなか見つからんのよ。仕事柄あんまり派手なんはいけんしね」
「ほんじゃあ片方やる」
そう言った彼の頬が赤く染まるのも。
「わけっこじゃ」
嬉しくて、耳が熱くなって、それで、彼の隣で笑って居たいと願ったんだ。
「なぁ諒ちゃん。誕生日は何が欲しい?」
「なんもいらん。まいかが隣におりゃあそれでええ」
明日からまた変わらない毎日が始まる。
何気無い日々のあちこちにきっと光る何かがたくさん落ちている。
見落としてしまいそうになる小さな光も、眩しくて目を閉じてしまいそうになる大きな光も彼となら、彼とでなければ拾えない。
「そうじゃ、こないだミヤと久しぶりに会うた時色々付き合わされてのう。お前も買え言われて……」
そう言って差し出されたのはスカイブルー。
「あの、あれじゃ。まだまいかに井尾谷性はやれんけど、その気はあるから、嫌じゃなかったら付けてくれや」
小さくて、眩しい光が差し込んだ日曜日の午前と午後の狭間。
抱き着いて分からなくなる互いの香りは同じ香り。
そして光る左手は、同じ光。