第18章 Sweet alyssum
「あと数年したらデッカイ一軒家買うて、まいかが飼いたい動物何匹も飼うて、ほんで子供は二人じゃ」
指折り折り、彼が語る夢は出会った頃と変わらずにいてくれる。それが何よりの幸せだと最近気付いたのだ。
「家はずっとここで良いよ。諒ちゃんの匂いが染み付いた部屋が好きよ」
「なんじゃあ、臭いんか?」
「そう言う事じゃない」
二人で悩んで買ったソファにクッション。ベランダに咲く花もあちこちに散らばり積み重なった週刊少年誌も、全部当たり前になっていて全部、宝物と最近やっと知ったのだ。
「日焼け跡、だいぶ薄なったね」
「そうじゃな」
大好きだったグローブ焼けが徐々に消えるのも、それだけ長く彼の横にいた証拠。
筋張った手の甲をひとつ撫でて頬に引き寄せた。
「なぁ諒ちゃん。水曜日さ、Sweety行こや。久しぶりに」
内緒だと話してくれた、彼の友人に聞いた場所。
私が好きだとしみじみ思う彼の優しさ。
「もっとええレストランとかあるじゃろ」
「んん、Sweetyに行きたいねん。あっこのパンケーキ久しぶりに食べたいんよ」
瞼を伏せて浮かぶ今まで見てきた彼の表情はどれも鮮明。
「なぁ諒ちゃん。ちょっと私の話聞いてくれる?」
彼の胸板にもたれ掛かり小さく話し始める日曜の昼。