第18章 Sweet alyssum
「まぁ早く帰れたとして、どうする?何かしたい?」
テーブルの上で踊る箸。しゃく、しゃくと噛み砕かれる蓮根。
「何かもクソも終わるん七時近いじゃろ。別に無いわ。ちゅーか、そんな歳でもなぁし」
口いっぱいに詰め込まれた白米を味噌汁で流し込みながら言う顔も見飽きる事は無い。
箸を置き、私の手首を掴んで奪ったヘアゴムでハーフアップに結ぶ姿に、いつだって胸が痛くなる。
「髪切りぃや」
「あ?嫌じゃ」
花粉症がキツい私が飲み出したお茶に文句を言っていたのに、いつの間にか黙って飲むようになった彼。かたん、とグラスをテーブルに置いてテレビのリモコンを手繰り寄せる。
「日曜日のテレビはなぁんも面白ぉない」
ぶちぶちと一人ごちて、また箸を握る。
彼の咀嚼音と私の咀嚼音が歪に重なる。
「諒ちゃん。食べるならちゃっと食べぇや、行儀悪いわ」
「ん〜、うっさいのう」
出汁が染みた人参を口に放り込み動く頬。
「ガキん頃は無駄に早起きして戦隊もん見とったんに今はそんな気力も無い」
「わかる。目覚ましなんか無くても起きれてた」
汁椀の底が見えだした。一思いに飲み干して、茶碗に残る白米をかき込んでお茶で流す。
「ずっとそうじゃあ思うとったわ」
かちゃりかちゃりと軽い音を奏で、茶碗を重ねて手を合わせた。
「ごっそーさん」
「はい、おそまつさんでした」