第18章 Sweet alyssum
「おはよう諒ちゃん」
あくせく働く一週間の尻尾。
穏やかな日差しが鼻をくすぐる三月の真ん中。
「…何時じゃ」
「もう十一時前よ」
ごうごうと回る洗濯機の音も、もう生活の一部になっていた。
ベッドで寝る彼を横目にベランダの洗濯物を取り込む事も。
「水曜日お仕事早う終われそう?」
ふかふかのお布団を静かに剥ぎ取り問い掛ければ彼女に向ける顔とは思えぬ険しい表情で一度小さく唸り声をあげた。
「わ、っからん…取引相手が無理難題吹っかけよるんじゃあ」
かちち、と鳴くコンロ。起き上がったと言うのに、今にもまたベッドへ倒れ込みそうな彼を引き摺り小さなテーブルの前に座らせた。
「誕生日なんだから早く帰してくれりゃあ良いのにね」
部屋の隅に山盛りになった洗濯物は後回しに、お茶碗を取り出した。初めて二人で旅行に行った時に買った、夫婦茶碗。
「そうも行かんのじゃ。あぁ〜、土日終わるん早すぎる」
湯気を立たせて私にアピールをする味噌汁をよそい、テーブルに置けば彼が立ち上がり少し黄ばんだしゃもじを手にして炊飯器へ向かおうとした。
「おはようさん、まいか」
そう言い、軽く唇が重なって電子音が邪魔をした。
「もうお昼近いし昨日の残りでええ?」
「構わんよ」
揃いの茶碗に、普段通りの量のご飯。
昨夜の残りのお煮染めと豆腐とわかめの味噌汁を前に、手を合わす。
「いただきます」
「いただきます」