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ENCORE

第17章 the world


きっと、ちょっとやそっとの風じゃ揺らがないんだろう。
だけど細い首筋も、つるりとした頬も、光る鈍色も助けを求めているように見える。

「住む世界が違うんよ。此処は普通の人には見えたらあかん場所」
「だけど…僕はヒーローだ。貴方から悲鳴が聞こえる」

痺れる足などお構い無しに腕を引き、抱き寄せて甘い香りに目眩がした。

「私らは此処に来た人に夢を売るんよ。せやけど、私らは決して夢なんか見たらあかんのや」
「違う、そんなのは間違っている。助けてという人が居るなら、助けなきゃ…それが僕の仕事」
「最後に夢を見れて良かったわぁ…ありがとうなぁ、ヒーロー…ファントムシーフ」

僕の浴衣がじわりと滲む。
地肌に染みる其れが温もった筈の体をまた冷やしてしまう。

「さぁさ、朝が来たで…そろそろ行かんと」

ゆるりと離れた華奢な身体。
僕に経験があれば、勇気があれば、何か違ったのだろうか。

「今日の事は忘れた方がええ。大門抜けたらいつも通りの日常がお兄さんを待っとるよ」

いつの間にか部屋の前に置かれた乾いたスーツを差し出して彼女が微笑んだ。
静かに結ばれるネクタイ。いっそ、そのまま息の根を。

「私なぁ、敵とヒーローの子やねんけど個性がイマイチやってん。土砂降りの中、虹が出せるねん。凄いんやら凄くないやら分からんやろ」
「凄いじゃないですか…。皆を笑顔に出来る、ヒーロー向けの個性だ」

皮肉に聞こえるだろうか。だけど汚れた心の奥底で素直にそう思った。彼女の顔を恐る恐る見れば、それも杞憂とすぐ分かる。

「いややわ、初めて言われた。私な、本当はずっとヒーローになりたかったんよ。せやけど勝手にしょうもない個性やって思っててん」

気が付けば入口。僕の靴を並べて最後に彼女が、笑う。

「このひと時の為に、私は沢山泣いてきたんかもしれんね」

そして首根を引かれて、唇が重なった。



「さいなら、私のヒーロー」

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