第17章 the world
「今までの話、聞いたんやろ?私の人生ほんまに良いことの方が少なかったわ。せやけど、最後にお兄さんに出会えたからプラスマイナスゼロ、ってとこやろうか」
からからと笑う姿は同世代のなんて事無い、普通の女の子に見える。だけど背負う過去があまりに重く暗い。僕に出来ることって何があるだろう。
「けど、好きでもない人と一緒になるなんて」
「好きか嫌いか、そんな事私らが言える立場ちゃうんよ」
ぴしゃり、突っぱねられた。彼女がそう言い拭う涙は止まることは無い。
「去年、この地区で電車事故あったやろ」
「あぁ、ありました。僕も駆り出された事故だ」
僕は彼女を抱き締める事さえ出来ず、ただ話を続ける。
「あの事故起こしたん、私が可愛がってた子が駆け落ちした敵やねん」
点と点が結ばれ、線になる。本来ならスッキリすべきなのに、むしろ胸が曇って行く。
「その電車が、身請けを申し出た鉄道会社の電車だった、って事ですか?」
「流石ヒーローやなぁ、物分りがええ」
視線を逸らされ、そして彼女は続ける。
「私に断る権利も、相手を選ぶ権利も無いんよ。断ってしもうたら私の全てである此処が無うなるだけや」
開け放たれた窓を見上げて彼女は寂しそうに笑った。
「それやったら、私は愛人だろうが何だろうが、身請けを受ける。私の全てである此処がずっとある、それだけで満足や」
「そんなのおかしい。間違ってますよ」
肩を掴み声を荒げれば鼻で笑われ、手を払われた。だけど、再び掴み僕は言う。
「じゃあ、僕が貴方を攫います。言いましたよね、全て捨てて貴方を幸せにしたいって」
きっと今の様な生活はさせてやれない。
だけど幸せにするくらい、僕にだって。
「…………やっぱり、もっと早うにお兄さんに会いたかったわぁ」