第17章 the world
「身請けの話、聞きました。今までの話も。けどまいか太夫はこの街きっての人気者なんでしょう?じゃあ身請けをするよりここでずっと…」
「そんな簡単なモノちゃうんよ」
少し崩された足。浴衣の隙間から覗く白い足がちらついて視線が下がりそうになるのをグッと堪えて話を続ける。
「私かて、ずっとこの街におりたい。ここが私の全てやからね。せやけどそれが私のケジメの付け方なんよ」
「……どれくらい通えば貴方は身請けをせずに済みますか?」
ヒーローの給料、いや僕の給料なんてたかが知れてる。だけど少しくらい足しになるなら、そう思いほんの少しの希望を、口に出した。
「誰が何回、とかそういう問題じゃあないんよ。嬉しいけどなぁ」
ひらり、ひらりと躱される問い掛けが壁にぶつかり跳ね返って来る。
「僕はもっとまいか太夫に会いたい」
「おおきに、私もお兄さんともっと早く会いたかったわ」
「本気ですよ、僕は」
たまたま降ってきた業務。そこで、たまたま出会った彼女。
忘れると思った。なのに忘れられなかった。
そして聞いてしまった彼女の過去は、僕のちゃちな過去とは比べ物にならないくらいだった。
どうにかして救いたいと思うのはエゴか、ヒーローとしての本質か。
「もし、貴方が僕を必要とするなら僕は全てを捨てて貴方を幸せにしたい」
「ほんまはなぁ、色々とやる事もあるから来月身請けする予定やったんよ。せやけどお相手の人がな、善は急げや言うてな、大安の明後日に決まったんよ。今日」
八畳ほどの広くも狭くもない和室。恐らく彼女が長く住んだ部屋だろう。ぐるりと見渡し彼女の瞳が輝いた。そして流れる涙も、輝いた。