第17章 the world
「この街の外の人からすれば我々の仕事も理解し難いんでしょうね。皆冷たいもんですよ。ヒーローだってそうだった」
頭に浮かんだ展開から逸れるのか?と男の横顔を眺めて続きを待った。
「だけど駆け付けたヒーローは違ったんです。迅速に敵を捕らえ傷付いた我々の手当てしっかりとしてくれた。そんな姿を純粋な若い娘が見ればイチコロでしょう」
あぁ、なんだ。逸れないのか。げんなりとする気持ちを隠して僕は精一杯の笑を見せ、男に言う。
「ヒーローとして、当たり前の行動ですね」
僕の笑をちらりとも見ずに、更に話を進める男が空を見上げて溜息をつく。
「あの子も女だ。すぐ恋仲になったよ。今すぐにでも身請けもあり得ると街はお祝いムード一色さ。誰も反対しない、我々を市民として見てくれたヒーローと、この街一番のあの子。お似合いだったんだ、本当に」
足元にひとつ、ふたつと増える煙草の吸殻。そのひとつひとつに、彼女の過去が燃やされる。
「足繁く通ってたんだ、ヒーローも。だけどある日を境にぱったりさ」
「忙しかったとかじゃないんですか?」
僕も一応ヒーローだ。ヒーローの肩を持ってやろうと努めて明るく振る舞えば、男は静かに頭を振った。
「丁度こんな雨の日だったかな。ヒーローと、その親が此処にやって来て頭を下げたんだよ。縁を切ってくれってな」
まぁ、そうなんだろうなと乾いた笑いしか出なかった。
「鞄いっぱいに詰められた濡れたお金を机に広げて。敵の血が入った女を、売女を嫁になんか迎えられないと」
「………それで?」
「まいか太夫は誰よりもこの仕事に誇りを持ってるんだ。そりゃあこの世の終わりのように怒り狂ったんだよ」
雨粒が傘を叩く音に負けてしまいそうな男の声を逃しそうになり、捕まえる。
僕は静かに傘を畳み、話を聞いた。だって男は雨粒に負けない程の大粒の涙を流しながら話しているんだから。それに気が付いてしまったら、見なかったふりは出来ないだろう。