第2章 Umbrella
先程まで街を覆っていた熱気が一転、吐く息が色付いた。
「ショートで手古摺ったけど俺ァまだ無事だ。お前見ない顔だな」
ビル壁に張り付いた敵が楽しげに叫ぶ。人の形で、まるで蜘蛛のように縦横無尽に移動する姿は異様そのもの。
「まぁNo.1ヒーローエンデヴァーの息子に傷を負わせただけでも今日は十分な位だ」
カッカッカッ、と高笑いをする敵が私を睨みながら後退る。
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数年前、私はテレビの前で驚き、恐れおののいた。
瞬き一度、次に目を開いた時、画面から飛び出さん勢いの氷壁に。
そして自らが放った氷壁を溶かす悲しげな横顔の中に恐怖を覚え、何故か私は彼に見とれてしまったのだ。
「他の事務所の方が向いてるんじゃないか…。ウラビティとか、イヤホンジャックとかのが…」
転がり落ちるように後を追い、私は雄英高校へと進学した。成績は中の下、決して優秀とは言い難いものだったがインターン先に彼の事務所を選んだ。
「体育祭の、トーナメント見てました。それ以来ショートに憧れてここまで来たんです」
持参した契約書、私の個性届とにらめっこする彼がその言葉を聞き、目線をあげた。そして伏し目がちに笑いこう言った。
「若気の至りだ…」
そして静かに判を押して、私は彼の事務所でインターンを開始した。
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「逃がす訳、無いでしょ」
私の個性は決して驚かれるような、褒められるような、すごいものでは無い。だけど誰かの、彼の個性と足し算引き算掛け算をすれば、多少使えるものになる。
凍り付いていたビル壁や街灯、電線が熱い日差しに照らされて徐々に水滴を落とし始めていた。
「捕まる訳ねぇだろ」