第17章 the world
「あのっ」
大門の手前で、声を掛けた。
彼女は道端に咲いた小さな花を見ていて、そんな何気無い姿も綺麗で、下唇をぎゅ、と噛み締めた。
「先日は花魁道中、って言うんですか?お疲れ様でした。とても綺麗でしたよ」
出来る限りの平静を装い、声を掛けるとゆるりと此方を向いた。
そして、まるで人形の様な真顔で一度会釈をした。
「僕、初めて見ました。凄かったなぁ」
「お兄さん、私は商品や。金にならん奴と話す暇は無いんよ」
言葉は柔らかいのに何処か冷たくて。彼女がニコリともしないから更に僕の掌は湿って行く。
「せやけど、お兄さんがこの門、潜って私に会いに来る、言うんやったら話は別やね。この線、超えれへんやろ…だって、お兄さん、ヒーローやもんなぁ」
足でちょい、ちょい、と大門の影を指し、彼女は頬を緩めた。
「ほな、さいなら」
くるりと背を向け歩きだそうとするから悔しさが込み上げ思わず叫ぶ。
「行きますよ!絶対に、貴女に会いに行きます。なんなら今夜お会いしましょう」
僕の言葉を聞き、振り返った彼女は笑った。だけどやっぱり、何処か寂しそうに見えたんだ。
「まじで!ファントムシーフ何やってんだ!今業務中だぞ!」
「先輩!僕今夜」
「行くのは自由だがまずは仕事だろうが!」
引き摺られる様に見回りをこなし、夜を待った。
待ち遠しくて、胸が痛くて、胸が踊る。
彼女に会える、そう思うだけでふわふわとした気持ちになった。
「じゃあすいません!お先に失礼します!」
もうすぐ会える、そう思うと不思議と足取りも軽くなるのだ。
「ファントムシーフ、今日すぐに会ってどうこうなるとか思ってんじゃねーの?」
「流石にそれはないでしょ…」
「いやぁ、分からんぞ…今の若い奴は花街で遊ばんだろ」
「…確かに…」
「まぁ勉強だと思ってくれりゃ良いが……」