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ENCORE

第17章 the world


赤に少し黒を混ぜたような、鈍い赤の着物。そして結われ露になった細い首筋に、何故か胸が締め付けられて目元が熱くなった。

「まいか太夫!」
「綺麗!」

飛び交う声が全て消えて行く。ヒーロースーツの胸元をきつく握り、逃がし方の分からない感情を持て余し、じっと鈍い赤を眺める。

「あの有名な鉄道会社の重役の所に向かうみたいよ」
「そんなのに気に入られてたら身請けも有り得るだろうね」

そして勝手に耳に飛び込む会話に、また胸が痛くなる。
サッと視線を上げると、まいかと呼ばれる花魁と目が合った。
瞬間、全身に電気が走ったようにも思えた。

口元に笑を浮かべていると言うのに、何故か悲しそうに見えた。

「ファントムシーフ!おい!」

耳元で聞こえた声にはっと我に返った。即座に笑を貼り付け僕は小さく謝った。

長く続く花魁道中。もう鈍い赤は見えなくなっていたのに、僕は、ただ呆然と立ち尽くして逃がし損ねた何とも言えない感情をそっとポケットにねじ込んだ。


心を奪われた、初めての経験にどうしたらいいか分からない。
だけど、言い方は悪くなってしまうが住む世界が違う。
きっと非日常的な空間に流されただけ。そう自分に言い聞かせ、夜を迎えた。


それから、一週間が過ぎ、ひと月が過ぎたと言うのに、ふとした瞬間、鐘の音が聴こえる気がするのだ。

自分に言い聞かせた言葉を何度も繰り返して湧き上がる感情を隠す。そんな風に過ごしながら僕はヒーローとしての業務を淡々とこなす。


「終わったか?」

いつかの様にまた、先輩が向こうの通りから僕を呼ぶ。
頷いて見せれば、此方に駆け寄ろうと走り出していた。

そして振り返れば、大門。

この花街には何でも揃っている。コンビニに似た店も医者も何でも。だからこの花街に生きる女達はこの大門を死ぬまで潜らないといつか聞いた。

「っ…?」

その時、一人の女が大門の前に立っているのを見逃さなかった。

「ちょ、ファントムシーフ?どこ行くんだよ!」

先輩の声などお構い無しに、僕は走る。
この機会を逃せばきっと、この気持ちは募るばかりで僕がパンクしてしまうから。
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