第17章 the world
「え?今日は半日警備?なんで僕が?」
朝のミーティングで通達された今日の業務にふつふつと怒りが沸いた。そんな物は警備員がやる仕事だろう。仮にも僕はヒーローなのに。
自席に戻る気も起きずに、フロアに突っ立っていると先輩が僕を宥める様に声を掛けてきた。
「今日はあの花街史上一番の売れっ子が花魁道中すんだよ。だから普段は中々入れないけど周りの市民も足運ぶんだわ。敵もいるかも知んねぇから仕方ねぇだろ」
肩に回された手が僕の背中をばしばしと叩いた。
痛みよりも憤りが勝って、笑顔を貼り忘れ溜息が転がる。
「やぁ!爆心地。元気だったかい?相変わらず凄い形相だね」
「あァ?誰だテメェ」
「ひどいなぁ、同じ雄英高校の同期だったじゃないか」
少し歳を重ね、社会に馴染みあの頃の情緒の不安定さは隠せるようになった。爆心地に突っ掛る前に己の持ち場を確認したかっただけだ。
初めて潜った大門の先には時代錯誤も甚だしい、まるで昔の様な建物がずらっと建ち並んでいた。
己の持ち場を確認し損ね、仕方なくふらり、ふらりと花街の大通りを歩いていると観客の声が聞こえた。
「この花街が出来て随分と経つが花魁道中なんて手で数えるくらいしか無かったよな」
「爺様達が現役の頃程、活気も無かったし日陰の場だったからなあ」
時刻は午後四時。ぽつぽつと燈籠に灯りがつき出した頃。
しゃん、しゃんと鐘の音が辺りに響き出した。同時に、向こうからわぁ、と眩い歓声が波打ち此方に押し寄せた。
「まいか太夫が来たぞ」
「綺麗なお着物」
「あんな別嬪見た事ねぇ」
「ファントムシーフ!何してんだ」
聞き慣れた先輩の声が何処かで聞こえた。
だけど僕は、僕の瞳は、遠くから聞こえる外八文字の音を奏でる凛とした姿に釘付けになっていた。