第16章 ウソツキのコイワズライ
欠伸が重なりパンパンの四角い箱はいつも退屈に塗れている。
それでも、目を刺す赤が退屈と私を引き剥がすから学校も悪くない。
「まいか帰ろ」
スクールバッグを手に言葉を降らす友達に睫毛越しに答えた。
「私今日日直変わったの」
「そうだったの?待っとこうか?」
友達の優しさが痛い。
ふるふると頭を振れば声がした。
「小野田くーん!ワイ今日日直やから少し遅れるってパーマ先輩に言うといてー」
「先、帰って大丈夫」
思いを隠すように、声を重ねた。誰にもまだ、言いたくない私の思い。
「田中ちゃん、早う日誌終わらして帰ろうや!」
「だから朝言ったじゃん!まいかちゃんと日直変わったんだってば」
ハッとして、時すでに遅し。私の机の前に居た友人がにんまり顔で私を見下ろしていた。
「じゃあ、私帰るね。また明日…ゆっくり聞かせてよ」
そして一人、また一人と去ってガランとする四角い箱の中。
自分が吐き出す呼吸の波が歪じゃないか。
心臓は飛び出ていないだろうか。見慣れた日誌を見る目が揺れる。
「なんかアレやな」
たった一言。まるで背中を刃物で刺されたように体が跳ねた。
ひとつ空けて座っていた彼が隣に座って手を伸ばす。
ふわりと香る彼の香りが、酸素の足りない私の頭を刺激した。
「日直、いっつもまいかと一緒な気ィするわ」
口の中、鉄の味が不意にした。頬の内側の柔い箇所を奥歯で噛んで、私は口角を上げた。
「そんな事ないよ」
「けどほら見てみぃ。前も、その前も、まいかとやん」
ぱらり、ぱらりと捲る日誌とグローブ焼けした手の甲に、生唾を呑んだ。
そっと耳にかけていた髪を下ろし、横顔を隠す。