第16章 ウソツキのコイワズライ
「今日の日直誰だー」
気怠さが蔓延する四角い箱で担任が問う。
初夏の一歩前、先輩と後輩の板挟みが息苦しいと感じるこの頃。
右を見ても左を見ても前も後ろも同じ悩みを抱えている。
「鳴子と田中さん」
後ろの誰かがそう投げ掛けた。ひとり、ふたり、さんにんと頭の旋毛を跳ねる一言。
そして癖のある声が響いて、笑いが起きる。
「ワイかいな!しゃーない、任せとき!」
「日直は誰でも出来るからなー。じゃあ頼むぞ」
そそくさと逃げる担任を見送って、束の間の休息。
「田中ちゃん、お願いあるんだけど…」
長い廊下で、私は今日の日直の一人を呼び止めた。視界の端に赤を閉じ込めて。
「うん?どうした?」
お下げ髪の可愛らしい友人が私の目を見て笑った。
私はそんな可愛らしい友人に、ひとつ嘘をつく。
「明日私日直じゃん?けど明日放課後にどうしても外せない用事があるんだ」
本当は用事なんて無くて、夕方の再放送の連続ドラマしか私の予定を埋めない。
「だから今日と明日、日直交代してくれない?」
些細な嘘だ。誰もきっとキズツカナイウソ。
だけどどうしてだろう、堪らなく後ろめたさを感じていた。
「そうなの?良いよ、変わってあげる」
眩しい笑顔が、その嘘を照らしあげるから胸が痛い。
「ありがとう!助かる」
正々堂々、行動を起こせない自分を恥じて、ただ一瞬の喜びを求めて。
投げ、積み重なった嘘はそろそろゴミ箱から溢れ出しそうだ。