第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
『……あ、の…』
揺らめくゆりな瞳は困惑の色に塗られている。
「立ち聞き…したわけじゃねぇんだが…
迎え、今日来ねぇんだろ」
『えっと…はい…』
ゆりなは少し不安げにスマホを握る。
轟が何を言いたいのかわからないと言った様子で、彼の次の一言を待った。
「なら、俺が送っていく」
『え!?』
思わず出した驚きの声が、広い廊下に響いた。
ゆりなは口をポカンと開けたまま轟を見る。
なんで?と言いたげな視線を無視するように轟は言葉を繋げた。
「タクシー、このへん走ってねぇぞ」
『それなら大丈夫ですよ、迎車しますから…』
「…いいから、乗ってけ」
『そう言われましても…』
なぜそこまで送りたいのか疑問だが、言葉と同様、グイグイ迫ってきて、
ついに背中が廊下の壁に当たった。
「送る」
最後のもう一押しに負けて、ゆりなは降参したと両手を胸の前にあげた
『わかりました、わかりましたから…
すこし離れてください…』
体はもう5センチと離れていない
こんなところをお姉様方に見られたら、なんと噂されるかわかったものじゃないもの。
「授業が終わったら、この廊下を抜けて本邸で待ってろ」
『…わかりました』
渋々返事をすると、轟先生は体を離して
廊下を進んでいく。
わたしも後を追おうと思ったけれど
一緒に戻るのはなんだか気が引けて、5分ほど合間をあけて、にじり口を潜る。
金を散らした白い懐紙の上に乗っている和菓子は紫色の段菊の花をを模したものだった。