第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
先生に言われた通り、本邸で待っていると
程なくして先生がやってきた。
「表に車を付けた」
『あ…はい
ありがとうございます。』
立派な松の木のそばに止まっていたのは黒いクラウン。
年の割に渋い趣味の車だなと思う。
扉を開けてくれた助手席に乗り込むと
一気に先生の香りに包まれた。
轟は後ろのシートに荷物を置くと、運転席に乗り込みシートベルトを締める。
『着物のままで、運転されるんですね』
「あぁ、靴だけは変えてるけどな」
足元を見ると、確かに、靴だけは普通のスニーカーで、そのアンバランスさが少し面白くて気持ちがほぐれた。
雨が打つ窓をワイパーが水を切って視界を開く。
低い音を立てて鳴ったエンジン音と共に、轟は車を走らせる。
少し進んだ大きな交差点のところで、車はゆっくり止まった。
赤い信号の光が、雨に反射して怪しげにひかる中、ふと横を過ぎていったのはよく知る傘の模様達。
『っ!お姉様たち…』
そぞって歩くのは、姦しく話しながら歩く生徒達。
轟は、ライトの色に反して青ざめていくゆりなの体を引き寄せ、抱きしめるように袂(たもと)で隠す。
『…っ…!?先生…』
「見られたくねぇんだろ?
隠れてろ」
先生の腕の中で心臓がバクバクと音を鳴らして跳ねている。
けれど、耳に当たる先生の胸元からも、同じくらい大きな音が聞こえて来て
それが余計に私に熱を与えた。
お姉様方の声が遠くなっていく
完全に聞こえなくなっても、轟先生の腕の力は緩むことがなくて、
そろそろと視線を持ち上げると、先生と目が合った。
(ーーーまた…その目…)
先生を照らす光が赤から青に変わる
粘っこい視線がこちらから逸らされ、体も離れた
車は音もなくまた進み始める。
顔の皮膚が熱を持って、なかなか冷めない。
紛らわせるように窓の外を見つめた。